おっさんは普段“ロン”とは呼ばれていない。
このあだ名は高校時代に親友の“師匠”がつけたものである。
“師匠”といっても何かの先生とかってことではない。
お笑いが大好きで、お笑い芸人には全て後ろに“〜師匠”と付けて呼んでいたのでいつしかそういう呼び名になったのだ。
顔はおっさんの方がかなり男前だったが、師匠は身体がデカくて柔道、水泳、かけっこと何をやってもだいたいおっさんとは互角でライバルだった。
ただし、勉強に関しては、田舎で小さい頃から“神童”と呼ばれていた師匠には、ついぞ一度も勝てなかった。
性格も思考も全く違う2人だったが、互いに田舎から出てきていたということもあったのか、妙に気が合ってしまい入学してすぐにどこへ行くにも一緒という間柄になった。
(一応、誤解のないように断っておきますが、おっさんも師匠も共に男色の気はありません。)
あいつはどう思ってるかわからないけど、おっさんは一番の理解者だと思っていたし、当時からこいつとは一生の親友だと信じて疑わなかった。
いつも一緒に不毛な馬鹿話に興じてばかりの2人だったけど、大事なことはいつも互いに真剣に話し合ったし、悪い事もさんざん一緒にやった。
ところが、先にも書いたとおり、元々性格も考え方も全く違う2人である。
時が経てば違う進路を歩むのは当然で、師匠が地方の国立大学に進学する一方、おっさんはお気楽な地元私大生に収まることになった。
そして、特に何の根拠もなかったが、あいつは大学を卒業すればこちらに帰って来ると思っていたおっさんはしだいに連絡もとらなくなってしまっていた。